中等教育における研究倫理:基礎編 p1

1. はじめに ~科学と技術の発展のために~
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みなさんも身の回りで起きているいろいろな現象や事柄などについて疑問を持ったり、不思議に思ったりすることがあるでしょう。科学とは、本来、知的好奇心を追究する営みであり、その対象は自然現象といったいわゆる理系的なものから、人間の考え方や社会のあり方、歴史といったいわゆる文系的なものまですべてを含みます。研究とは、そうした知りたいことを探し(search)、それらをもう一度探索する(re-search)行為です。本を通して知識を得ることも楽しいですが、自分で実際に調べて新しく分かったときの達成感は何物にも代え難いものがあります。

人類は身の回りの様々な自然現象や生物の仕組みを観察したり、それらの結果を技術として応用したりして社会と生活を形作ってきました。研究活動は知的好奇心の追究という意味を超え、私たち人間のあり方をも作り変えてしまいます。例えば、冷蔵庫やテレビ、スマートフォンは100年前には存在しなかったものですが、これらのない暮らしをみなさんは想像できますか? また、人間の行動のパターンや集団心理に関する心理学的・人文社会学的研究は、私たちとは何かという問いに答えるだけでなく、私たちにとって望ましい社会のあり方を考えることにもつながります。このように、研究活動は私たちの生活を便利にし、世界と私たちに関する理解を豊かにしてくれる一方で、使い方によっては人間や生物、環境に悪い影響を与えるため、研究の実施には慎重さが求められる場合もあります。

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たくさんの人がいろいろな角度から研究に関わっています。人によって関心も、研究して明らかにする対象や内容も異なります。現在の科学と技術の成果は、多くの人が積み重ねて来た知識とその歴史の恩恵にあずかっているのです。そうした集団的な営みである以上、独りよがりで勝手なやり方でなされた研究・発表は、どれだけ興味深い内容であっても、他人の研究活動を阻害しかねません。そうならないために、本教材では正しい研究の進め方、研究対象の正しい取り扱いや、研究の成果を社会に発表する際の方法を解説します。しっかりした成果を発表したり、他の人の研究成果を聞いたりすることで、私たちはもっといろいろなことを知りたくなるでしょう。また、研究活動そのものがより楽しく、豊かになることでしょう。研究活動の適切な進め方の理解は、研究活動を後押しするのです。そして何よりも、研究を行うみなさん自身を守ることにもつながるのです。

また、実際に研究を行わない人であっても、研究活動とはどのようなものかを理解しておくことは重要でしょう。なぜならば、研究が悪用されたり、おかしな方向に進んでいたりする場合、多くの人がその影響を受けるからです。その意味で、現代社会において、私たちすべてが研究活動に関係していると言えます。

以上を踏まえ、ここでは、誠実な研究活動を実施するための基礎となる事項を学びます。

本単元の学習目標は以下です。

  • 誠実な研究活動とはどのようなことであり、研究活動における不正行為とはどのようなものであるかを理解し、説明できる。
  • 実際の不正行為の例を挙げて、これから研究をしたり、発表をしたりするときに注意すべきことを理解し、説明できる。
  • 研究を計画・実施・公開する際に注意すべきことを理解し、説明できる。

研究をする前や研究を実施しているときに、そして研究の成果を公開するときに、これらのことをよく理解して楽しく研究を進めてください。