※本エッセイは2021年10月15日にAPRIN関係者用のメルマガで配信された記事を
当時の内容で掲載しています。
研究倫理に関する国際会議の一つにAPRI (Asia Pacific Rim Research Integrity
Network)という2年に一度のものがあり、次回2023年は公正研究推進協会(APRIN)が主催して行います。“APRI”と”APRIN”は言葉上、極めて紛らわしいのですが、実は、「研究倫理」という言葉自身も極めて紛らわしい点があるのです。それは、2023年会議のプログラムを議論の中で表面化したことですが、少なくもアジア諸国では「研究倫理」と言うと、捏造・改ざん・盗用に汚されていない、という主旨を持つ「研究公正」と、人を対象とした研究における「被験者保護」の両方を意味するのが一般的ですが、その一方、北米では「研究倫理(Research Ethics)」と言えば、「被験者保護」にまつわるもので、研究公正(Research Integrity)とは別個な課題として取り扱われる慣習があります。これは英文法上、というより決め事の問題で、実際、此処彼処に”Research Ethics and Integrity”という表現が見受けられます。
私の個人的推察ですが、アジア諸国に生じている慣習の源は、2000年に米国Human Health Service (保健福祉省)が、研究者が学ぶべき「責任ある行動(Responsible Conduct of Research)」を構成する複数の要素のリストの中に、研究公正に関する多くの項目とならんで、被験者保護が一つの項目として提示された、と言ったことがあるものと思われます。
一方、Research EthicsとResearch Integrityは、全く繋がりの無いものと考えるべきものではありません。被験者保護の観点での研究倫理(即ち臨床研究倫理)の原則の一つは、被験者保護が負うリスク以上に研究がもたらしうる利益が大きいものである必要があることですが、もし研究に公正性を欠いて、科学的価値が無い研究となれば、まさにこの臨床研究の原則にもとるからです。
研究は分野を問わず今後、ますます学際化・国際化が進みます。2023年のAPRI会合のメインテーマも国際協調としており、「被験者保護」と「研究公正」に関する言葉の使い方も次第に統一されていくものと思われます。
(APRIN関係者向けメルマガ配信日:2021年10月15日)
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