※本エッセイは2023年9月21日にAPRIN関係者用のメルマガで配信された記事を当時の内容で掲載しています。
現在、APRINでは約145単元のe-learning教材を提供している。2017年10月から2023年8月までで、最も修了証発行数が多かった単元は、「公的研究費の取扱い」の約75万枚であった。続いて「研究における不正行為」の約51万枚、40万枚を超えていたのが、「責任ある研究者の行為について」、「データの扱い」、「盗用と見なされる行為」の3単元であり、30万枚を超えていたのが、「オーサーシップ」、「共同研究のルール」、「利益相反」の3単元であった。以上の8単元は、おそらく各大学・研究機関の研究倫理教育担当部署からの指示により、義務的に履修していたものと思われる。
それに比し、「研究の再現性の適正な表現と信頼性」など、研究の質的向上を図るために用意されている生物統計学などに関する教材の修了証発行数は数千、または数百であり、まだまだ有効に利用されているとは言いがたい。
北海道大学の前身である札幌農学校の初代教頭であった、クラーク博士は、“Boys be ambitious” という言葉を残し、明治時代の青年を鼓舞したことがよく知られているが、もう一つ、“Be Gentleman” という言葉も残している。当時の札幌農学校の学生の中には、粗野で乱暴で、夜な夜な街に繰り出し酒を飲んでは暴れるような学生がおり、当時の事務担当者は、規則を作って違反した場合には厳罰に処すようにしようとしていたが、それを聞いたクラーク博士は、「そのような規則は必要無い。“Be Gentleman” の一言で良い。」といったそうである。
Be Gentleman と言われた学生は、どのようにしたら Gentleman になれるのだろうかと自ら考えるようになり、不適切な行動は収まったとの記録が北海道大学総合博物館に残されている。
研究倫理教育は、「あれをしてはいけない,これをしてはいけない」というような規制教育になりがちであるが、研究倫理教育の真髄は、クラーク博士に倣えば“Be Scientist”の意味を研究者に気づかせることだと思う。研究者はどのようにあるべきかについて考え始めた学生・研究者には、十分な教育の機会・教材が用意されていることが望まれる。eAPRINには、研究不正を防ぐための教材だけではなく、よりよい研究を推進していくために必要な教材も多数用意されている。
現在、準備が進められている「認定研究公正アドバイザー」の到達目標の一番目に、「研究公正教育に必要な事項の全体像を理解し、履修者に必要なカリキュラムを提案することができる。」ことが掲げられており、認定研究公正アドバイザー制度の普及により、e-APRIN 教材が広く利用されるようになることを願っている。
(APRIN関係者向けメルマガ配信日:2023年9月21日)
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